代表ウィーク明けの久しぶりのプレミアリーグ。今節もプレミアリーグは注目な一戦が目白押し。リヴァプール×エヴァートンの試合も熱い熱いダービーマッチでした。
そして今回お届けするのが「師弟対決」となったマンチェスター・シティ×アーセナルの試合。ペップとアルテタの師弟対決。似ているようで似ていない両チームのスタイル。アルテタの采配、チーム作りの中にはペップから受け継いだ面影はあるものの、彼のスタイルもしっかり表現されている。この試合でも自分の色を出しながらペップシティへ戦いを挑んだが、軍配は師匠に。
結果はホームのシティが1-0と辛くも勝点3をゲットした。この日のシティは普段見せない顔を覗かせた。相手がアーセナルということもあり、こういった戦術をペップがこの試合にぶつけたのか、選手のやりくり上こういった戦術を採用したのかは分からないが新たな一面を見れたという意味では非常に面白いゲームであった。
この日のシティの配置は分かりづらかった。スタートポジションは何?可変システム?ゾーンディフェンスなの?マンマークなの?いろんな疑問を投げかけながらゲームが進んでいく。ペップの頭は何を描き、ベンチで何を喋っているのかを想像するだけで頭が疲れる一方ワクワクもする。
客観的に映像を見ている側からの目にも、この日のシティは何をやっているのか非常に分かりづらかった。ましてやピッチの中でプレーしている選手やベンチにいる監督、コーチにはもっと分かりづらかったはずだ。この分かりづらかった=混乱招くことがペップの一番の目的だった。
分かりづらさが重要
プレミアリーグではだいたい試合開始1時間ほど前に先発メンバー・ベンチメンバーが発表される。これが今節の1時間ほど前に発表された先発メンバー・ベンチメンバー。
このメンバーを見て皆さんはどんなシステムと想像しますか?シティの試合をよく見る人はこんな配置を想像したのではないだろうか?

中盤の構成は違えど、4-3-3もしくは4-2-1-3のような配置を思い浮かんだのではないだろうか。もしかすると3バックで右のWBマフレズ、左のWBカンセロも考えられたかもしれないが実際はほとんどの人が予想できなかった配置をこの試合にペップは並べてきた。それがこちら。

まずはカンセロとウォーカーの位置に困惑した。試合開始からウォーカーとカンセロとマフレズが右のレーンにいるぞ!?やっぱり後ろは3バックで、カンセロが右の何?マフレズは右のWB?そしたら左のWBは誰?アケなの、フォーデンなの?
そして最前線のアグエロとスターリングの位置もあれ?という感じに。二人が中央にいるよ。スターリングがいつものように左のワイドからインサイドに絞ってるのかなと思いきや左にはしっかりフォーデンが位置する。
そう映像を見ている側からすれば本当にシティがどんな配置かまるっきり分からなかったのが正直なところだ。試合が経過するうちに4-2-1-3が可変してこうなっているとも推測した。右SBにカンセロが入って偽SBになりボール保持にはインサイドに入り、ウォーカーはこの試合右のCBなのか。スターリングとアグエロが縦関係なのかとも想像できた。しかし、もう一度試合を振り返った時に3-3-1-3が基本配置なのかなと私の中では腑に落ちた。
この試合でペップが採用した配置は後ほど書くとして、まずシティの選手がどんな立ち位置で並んでいるのかがこれほど分かりにくかったのは初めてかもしれない。俯瞰的に映像を見ている側がこれほど分かりにくいなと思うのだったら、ピッチでプレーしている選手はもっと分かりづらかったはずだ。この分かりづらいがこの試合一番重要。この分かりづらさがアーセナルを迷わせ、困惑させていったように感じた。
配置を知ることは大事
果たしてアーセナルの選手たち、そしてベンチにいるアルテタはどれくらいの時間でこのペップが仕掛けた『配置の奇策』を読み解けたのだろうか。ここがすごーく気になる。
相手の配置を理解するのは極めて重要。なぜかというと、相手の配置がこうだからここを狙い撃ちしよう。相手の配置がこうだからこうやってボールを奪いに行こうというように、攻守に置いてどんな戦術を組むのかという要素の中には相手の配置を踏まえた話をするからだ。両チームの個人レベルに大きな差があればあまり関係ないのかもしれないが、このレベルになるとそうはいかないだろう。1vs2の状況を作っても突破する選手はいるし、ましてや2vs1といった数的優位を作られてしまえば無理ゲーに陥るだろう。
相手の配置を分からずプレスにいったことでただボールを追い回されて疲れて終わるのか。相手の配置も分からずにボールを繋いでボールを中央(外は空いているのに!)で奪われてしまうのか。相手の配置を理解しているのか、理解していないかでチームの戦術も代わり、選手の振る舞い方も変わるはずだ。
ペップの『配置の奇策』は結果として、誰が誰にマークに行くの?どうやってボール奪うの?どうやってボールを運ぶの?どうやってフィニッシュまで持ち込むの?といった感じでアーセナルに混乱を招くことに成功したと言えるだろう。
この混乱がマークのズレに、対策の遅れを招いたとも言えるだろう。
理にかなった配置
ただただアーセナルを混乱させるためにこのような配置、戦術をとったのではないのがペップらしいところだ。
シティの選手が複数のポジションをハイレベルでこなせる事が、この配置、この戦術が成り立った要因だ。あらゆる局面で立ち位置が目まぐるしく変えることを、いつも以上に求められていたこの日のシティの選手たち。

シティのビルドアップはいつものようにGKエデルソンから始まる。この時のアーセナルの配置は最初は3-4-3。しかしシティによって段々と後ろと前を分断されるようになり中央にスペースが開くようになっていく。

高い位置をとるマフレズとフォーデンをどうするのか問題が発生。3バックの脇のスペースに位置取る2人を流石に無視できなくなる。またGKエデルソンからそこへ(フォーデン、マフレズ)長いボールも頻繁に入るようになり自然と配置が変わっていくアーセナル。

中盤にいたベジェリンは一列下がり、後方は4バックへと。そしてカンセロにはサカがついたり、ジャカがつくことも。サカは後ろのマフレズも気になる。カンセロにつくのかマフレズにつくのか迷いが生じる。これもペップの狙いの一つ。
これでひとまずマークははっきりした!と思いきや一息すらつかせない。可変を加えてアーセナルの守備の基準をさらに混乱させていく。

ロドリがサリー。後方3バックを4バックにしていく。アーセナルのフロントスリーのプレスをGKエデルソンを加えた5枚の数的優位の状況でボールを動かす。シティのDFラインは前への配給力もあるのはもちろん、前にスペースがあれば自らドリブルで運ぶことも出来ちゃう。その為この状況をこのままにしていくわけにはいかないアーセナルは中盤の選手の一枚をフロントスリーに加勢させてハイプレスをかける。しかし、そうなると今度は中盤でシティに数的優位の状況が出来てしまう。

それに加えて中盤のベルナルドも下がってボールを引き出すからこれまた厄介。彼はボールを受けると前を向きスルスルと中央をドリブルするシーンを何回も見せる。さらにさらにスターリングもライン間でボールを引き出したり、フォーデン、マフレズもボールを引き出す。スカスカになった中盤でボールの出し入れをしながらプレスを剥がし前進。そして生まれた先制ゴール。
得点シーンはベルナルドがサリー(最終ラインに落ちる)でボールを引き出す。お次はGKエデルソンから中盤へ落ちたスターリングへ縦パスから落とし。今度はライン間げ落ちるアグエロへ縦パスから落とし。縦の出し入れで前進、アーセナルのCBを釣り出し、陣形を崩していき、最後はCBルベン・ディアスから落ちるマフレズに縦パスが入りカットインからアグエロに横パスが入ると一気にゴール前へ。最後はスターリングが押し込み見事な先制ゴールが生まれた。
この試合、アーセナルの中盤とCBは落ちるシティの選手たちをマークする為に、縦のアップダウンを非常にさせられたと思う。マークに行かなくてはフリーにさせられるし、マークにつけば裏のスペースが空いてしまうジレンマを抱えながらプレーをさせられていただろう。
この時カンセロはあまり落ちてボールを引き出さなかったのもポイント。ビルドアップにはあまり顔を出さずに右のハーフスペースにたつ。そこでサカやティアニーを食いつかせる役割。

そしてボールがアーセナル陣内に入ると右のインサイドハーフのポジションへ。デ・ブライネの主戦場へ。攻撃大好きカンセロの良さがペナルティエリア付近で爆発する。前線の選手顔負けの狭いエリアでのターン。サイドを切り裂くドリブル。シティで今までは歯がゆさが色々残っていたカンセロだったが、何か生きる術が一つ見えた気がして嬉しい気持ちになったな。
なぜカンセロ?ウォーカー?
攻撃面だけ考えれば、カンセロの位置はギュンドンといった中盤の選手でもいいのでは?とも思うかもしれないが、守備の面も踏まえての起用だった。アーセナルもシティ同様に、形は違えどビルドアップはショートパスを織り交ぜて後方からつなぐスタイルだ。それに対してシティはハイプレスをかける。この時トップ下のスターリングも加わり3-3-4の様な配置でプレスをかけにいく。これに対してアーセナルも、中盤のジャカやセバージョスも加わりビルドアップ。数的優位でビルドアップを試みるアーセナルに対してコースを切りながらプレスをかけるフロント4(フォーデン、スターリング、アグエロ、マフレズ)。フロント4でボールを奪われれば最高だが、アーセナルに最前線に蹴らせるのもOK。ボールを蹴らせてしまえば3バック+ロドリとベルナルドがセカンドボールを拾う準備も整っている。

一番やられたくない形はフロント4を剥がされてビルドアップ隊にボールを運ばれること。何度かそんなシーンもありシティのフロント4のハイプレスが完璧に機能したとは言えないが、上手くやり過ごした感じはあった。
この時のカンセロはアーセナルのビルドアップのキーとなるサカをしっかり抑える役割を担っていた。アーセナル陣内でフロント4がプレスにいくときは必ずサカを監視していた。中央に、外に動き回るサカをしっかり監視。33分にはCBガブリエルの縦パスをカンセロがカットしてショートカウンターの起点になるシーンも。狙っていた形。
そしてカンセロの守備の役割はこれだけではない。フロント4のプレスが剥がされてシティ陣内に押し込まれたときだ。このときシティの配置は4-4-2になる。カンセロは普段の持ち場である右SBの位置に入ることでこの4-4-2ブロックが成り立つ。こういう意味で中盤の選手ではなくカンセロだったのだろう。カンセロだからできるタスクが渡された。

それはこの日のウォーカーも一緒だ。彼の持ち前のスピードでカウンター対応はもちろん、ボール保持の時にはロドリがサリーすることで普段の持ち場である右SBに入ることを求められる。アーセナルに押し込まれたときはディアスとともにCBに入りオーバメヤンと対人する仕事を与えられたがしっかり仕事をこなした。ストーンズではなく、ウォーカーが選ばれた意味もこんなことから腑に落ちるのではないだろうか。
左のアケもだね。彼もCBもSBもCHも出来ちゃうからね。一人で複数のポジションができるシティの選手たちの強みが活かされた戦術だったね!
おわり
Embed from Getty Images後半は前半とは一変、何か眠気を誘う様な展開に。シティが上手く時間を進めのかもしれない。何事も無いようにに、そっと後半は針を進めさせるシティ。そしてスコアは動かずに1-0でシティが久しぶりの勝点3をゲット。勝点3も嬉しいが、プレミアリーグ今シーズン初めてクリーンシートだったことも収穫だったはず。新加入のディアス、アケは素晴らしいパフォーマンスを見せた。もう何試合もこのチームでプレーしているかの様に。ルベン・ディアスはスケール大きい、惚れ惚れする選手ですは。
そしておかえりアグエロ。やっぱりあなたがいるだけで心強いですは!
Embed from Getty Imagesアーセナルにチャンスがなかったわけでもないし、シティには怪しい部分も少なくなかった。シティの怪しい部分を狙い撃ちして攻め込めれば結果はもう少し変わったのかもしれない。そう出来なかった、そうさせなかった何かがあるのかもしれない。ペップの仕掛けた「配置の奇策」に混乱させられ、見えるものも見えなくなってしまったのかもしれない。ペップによって色んなことを考えさせられてしまったのかもしれない。それでもアーセナルの左サイドは強烈だった。分かっていても止められないタイミングとスキルを発揮し、幾度となく決定機を作り出したのはお見事でしたね。あとはトーマスが楽しみだね!
今節もハイレベルな師弟対決を見せてくれて、非常に楽しかった。やっぱりサッカーって面白いなと思わせてくれる90分だった。
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