アトレティコ・マドリードの守備戦術

サッカー戦術分析
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今回はシメオネ監督率いる、アトレティコマドリードの戦術を分析してみた。シメオネがアトレティコの監督に就任してから今季で10シーズン目となっている。長い間、一人の監督が指揮をとると、チームの新陳代謝が悪くなり、マンネリ化を招き、悪い方向へと進んでしまうのは少なくない話だ。

 しかし、今季のアトレティコが見せる戦いぶりにはそんな言葉は当てはまらない。マンネリ化などはせずに、シメオネはチームにチャレンジを求め、それに答える選手たち。そしてタイトルの通り、進化を遂げるチーム。今までより強いアトレティコの姿をピッチ上で見せてくれている。

そんな進化した姿「シメオネアトレティコ2.0」を解説していきたいと思います。

今回は守備戦術編!攻撃戦術編はコチラで!

守備戦術

今シーズンのアトレティコの戦いぶりの大きな特徴として、より攻撃的なスタイルとなっていることは攻撃戦術編で述べた通り。しかし、シメオネアトレティコといえば鉄壁の守備陣。そんならしさも保たれている。ここまでリーグ戦10試合を終えて8勝2分の負けなし。失点数は僅か2と驚異的な数字を残している。1点奪ってしまえばほぼ勝利してしまうほどの数字だ。

それを可能にするのは、シメオネによって徹底的に叩き込まれた、守備スキルやボールへの執着はもちろん、相手に合わせて変える配置。それを可能にするのが、一人が複数のポジションで守備のタスクをこなせるスキルがアトレティコの選手が兼ね備えているからだ。相手を見て守備選択をできる。これは攻撃戦術編でも述べたことと同様に、相手を見ながらプレーできるハイレベルなスキルがアトレティコの選手には十分にあると言うことだ。

今シーズンのアトレティコの守備戦術は大きく分けて二つ。前からのプレスと、自陣に鉄壁のブロックを敷く2つの戦術を状況に応じて使い分ける。

プランA(前からのプレス)

アトレティコは相手陣内にボールがある時には、ガンガンボールに出るわけではないが、中央から一方のサイドへ限定をかけて、ボールサイドに圧縮してボールにアタックをする。

守備戦術のベース配置は攻撃戦術同様に4-4-2。一方のサイドにボールを誘導すると、ボールサイドのSHが相手のSBへアタック。SBが相手のSHへアタック。中盤の選手と、逆サイドのSHはボールサイドへスライドし、相手の時間とスペースを埋めていく。この時、逆サイドのSBはしっかりボールサイドにスライドし、後方を3枚にし、リスク管理を怠らない。ボールサイドへ圧縮しボールを奪い切る戦術だ。

逆サイドの相手SH、SBはフリーになるシーンもあり、サイドチェンジのボールを入れらてしまうと、一気に相手にスペースを与えてしまうリスクがあるのが、この戦術の弱点。そのようにサイドチェンジをされて前進されてしまうシーンも何度か見たので、これからの課題の一つだろう。

プランB(撤退守備)

前からのプレスがかからなかった時は、素早く自陣に撤退し、4-4-2のブロックを形成する。また状況に合わせて、プランAをせずに、最初からプランB(撤退守備)を実行し、守備を徹底的に固めたり、カウンターを狙う戦術も忘れていない。

シメオネアトレティコの代名詞と言ってもいい、4-4-2の撤退守備。徹底的に中央を圧縮し、ゴール前を固める。相手のミスが出るまで忍耐強く守りを固める。そして最後は難攻不落のGKオブラクがセーブを連発。鉄壁の赤白の壁が完成させる。

19/20 CLラウンド16 vsリヴァプール

ボールを外へ外へ回させてジリジリと追い込んでいく。焦れて中央にボールが入ればトラップ発動。一気に囲い込む。またクロスをあげさせれば、強靭なCB(サヴィッチ、ヒメネス、フェリペ)が涼しい顔で跳ね返し続ける。

この4-4-2の撤退守備の完成度はアトレティコは世界一と言っても過言ではないだろう。本当に頑丈。そこから繰り出されるカウンターは今シーズンも切れ味がある。

プランBにはもう一つの形が。完成度抜群の4-4-2ブロックにプラスα、5バックでの撤退守備が加わっている。

5-3-2撤退守備

どうしても4バックではサイドを深く取られてしまう状況がある。それは相手がアトレティコ陣内にボールを持って押し込んだ時に、4トップもしくは5トップの配置になる時だ。相手にWBがいる時や、SBが高い位置どりをしてきた時にはどうしても4バックでは大外が開いてしまうし、SBがつり出された時のチャンネル(SBとCB)間が開いてしまい、ペネへ侵入される確率が増える。

レアルのように、アンカーのカゼミロが最終ラインに入って、CBのカバーに入る戦術もあるが、アトレティコは左SHが一列落ちて後方を5バックにし、右SHがインサイドに絞って中盤3人と可変して対応している。中盤を3人にしても、中盤のプレス強度が落ちないのもアトレティコの強みの一つ。サウール、コケ、ジョレンテの中盤3人の運動量、強度は素晴らしい。ジョレンテのランニング強度は守備の局面でも大いに役立っている。

このように左SHが最終ラインまで落ちて5バックへの可変が完了する。中盤は3人だが、状況に応じては2トップの一角が一列落ちて、5-4-1のブロックになることも。鉄壁の4-4-2ブロックに加えて、5バックの撤退守備もチームに加わったことで、まさに鬼に金棒。より強固なシメオネアトレティコへと進化している。

5-3-2撤退守備の課題

この強固になった5-3-2撤退守備にも弱点が浮き彫りとなる。ラ・リーガ第13節でのマドリードダービーでその弱点が浮き彫りとなった。この日のアトレティコの2トップはJ・フェリックスとスアレス。攻撃力抜群の2人だが、守備貢献度には首を傾げる人も多いだろう。その予想が的中する。

まずは、レアルはビルドアップ時に可変を加えて、モドリッチとクロース、ラモスを中心にボールを動かす。この日のアトレティコの2トップの守備スキルでは何も出来ないまま、簡単にボールを前進されてしまう。

自陣に押し込まれたアトレティコは5-3-2のブロックを形成しゴール前を固める。しかしレアルの攻撃を待ち受けたのは2トップを覗く8人の選手だった。中盤が3人でも守れる強度を持っているアトレティコではあるが、相手はビッククラブのレアル。しっかりそこの弱点を突いて横にどんどん揺さぶり、中盤にスライでのズレを生み出す。その綻びからミドルシュートを放たれたり、横のスライドが間に合わずにクロスをあげられ失点をしてしまった。まんまとレアルにしてやられた形となった。

いくらアトレティコの選手たちの守備スキルと守備意識が高くても前線の2トップが守備をサボってしまえば相手がビッククラブとなれば尚更難しい展開に、この試合のようになるだろう。ここはシメオネの采配に注目だ。相手に合わせて2トップのコンビは考えなければいけないだろう。自分たちがボールを握り、相手を押し込む展開になる試合ならば、J・フェリックスとスアレスのコンビはいいかもしれない(コスタもいるね)。

しかし、ビッククラブとの対戦でボールを握れない展開になった時、2トップの守備貢献は必須になってくるはずだ。ここは新たなアトレティコの課題になりそうだ。

可変守備のキーマン

4バックにも、5バックにも可変するアトレティコの撤退守備だが、この可変を可能にするキーマンがいる。それはNo.22エルモソだ。エルモソが左SBでもCBとしての守備スキルを十分に発揮できることがこの可変システムを可能にしている要因だと感じる。

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昨シーズン加入したエルモソは加入当初は力を発揮できなかったが、今シーズンはシメオネの信頼も積み上げ、今では欠かせない存在へと成長している。エルモソの存在は守備だけでなく、攻撃面でも大きな貢献をしてる。

私が、ここまでのアトレティコの戦いぶりを見て、エルモソは最注目すべき一人の選手だと思っている。その理由は後ほど。

最注目選手2名

ここまで「シメオネアトレティコ2.0」と題して、アトレティコの攻撃戦術と守備戦術に分けて、どうシメオネのアトレティコが進化を遂げているか説明してきた。その中でもこの「シメオネアトレティコ2.0」を語る上でチームに欠かせない選手2名ご紹介いたします。

マルコス・ジョレンテ

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一人目はNo.14マルコスジョレンテだ。昨シーズンCLラウンド16でリヴァプールから奪ったゴールで思い出される人も多いのではないだろうか?

今シーズンは右のSHもしくは右のシャドーとして存在感を発揮している。180cmを超える体格から、ダイナミックなランニングが彼の武器の一つだ。もともとは中盤の選手なので、足元の技術もしっかりしている。シメオネに魔改造され、アタッカーとしての才能を爆発している。

攻撃時には右のトリッピアーとのホットラインはラ・リーガでも随一の破壊力をもつ。インサイドからのチャンネルランは例え分かっていても止められないスピードと精度で、今シーズンのアトレティコの攻撃の特徴の一つ。もちろんカウンターになった時にも、彼の走力は大きな武器になる。

攻撃だけでなく、守備での貢献度も非常に高い。シンプルに足が早いので、危ないシーンには長い距離をスプリントして相手のチャンスを摘むシーンも少なくない。広範囲を守れる走力がある為、アトレティコが5バックでブロックを作っても、決して後ろに重すぎる状況にならないのだ。

ジョレンテの良さはオフザボールの時に遺憾無く発揮されるので、ジョレンテがボールを持っていない時のプレーを是非見て欲しい。

マリオ・エルモソ

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二人目は先ほども、守備時の可変システムを可能にするキーマンにもあげた、マリオ・エルモソだ。攻守に可変する今シーズンの「シメオネアトレティコ2.0」を影で支えるキーマンは彼だ。どうしても、Jフェリックスやスアレス、ジョレンテ、守備時にはGKオブラクが目立ってしまうが、エルモソは欠かせない存在だと思っている。

ボール保持にはインサイドに絞ることで後方3バックに可変し、そこから次々と前線が可変していく。システムを可変させることで、優位性を持ってボールを運び、攻め込む狙いがあることは前編で述べた通りだ。エルモソは左利き。そして配給力にも非常に長けている。小刻みにボールを動かす左サイドの攻撃の始まりは彼の配給から。

ボールを保持された時には、状況に応じて4バックのSBとして、5バック時には左CBとして複雑な守備タスクをこなしていく。

もしかしたら、シメオネはこの形をずっとトライしたかったのかもしれない。それができなかったのは、バイエルンにリュカ・エルナンデスを奪われてしまったことが大きな理由ではないか。その時描いていた青写真を今、エルモソの存在で実現させようとしているのかもしれない。

地味ではあるが、攻守の可変を支える彼のプレーも是非見て欲しい。

終わり

アトレティコにシメオネが就任して10年目となる。その長い年月で、確かにアトレティコをビッククラブへと成長させたシメオネ。シメオネのスタイルが確立したとはいえ、ここ数シーズンは少しマンネリ化がある雰囲気も漂っていた。もうピークはすぎたのかなと思う戦いぶりも。しかし、そんな中でも、シメオネのチャレンジは終わらなかった。よりいいチームを作る、より強いチームを作る為に探求するシメオネ。

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古き良きシメオネアトレティコもしっかり残しつつ、進化した「シメオネアトレティコ2.0」は必見だ。非常に勉強になるし、いいチーム。この戦いぶりで結果を残すことができれば、正真正銘、「シメオネアトレティコ」は新たな境地へと進めるはずだ。

チャンピオンズリーグはマンチェスターシティとは出来るだけ当たって欲しくないけど、戦って欲しい気持ちもあります。

今シーズンはアトレティコから目が離せないのは間違いない。

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